空調サービス プロジェクトストーリー
-
空調サービスプロジェクト「シビアな温度管理に
耐えうる施設をつくる」PJの概略
検体を扱う受託臨床検査事業会社様が事業所の新設に乗り出した。検体は温度変化の影響を受けやすいため、検査施設を建設する上では、施設内の温度をシビアに管理する必要がある。そこで、日立グローバルライフソリューションズは、冷蔵・冷凍設備のスペシャリストとしてこのプロジェクトに参画することになった。ちなみに、計画された検査施設の大きさは、間口約5m×奥行約40m×高さ約20m。日立グローバルライフソリューションズでは、これほど大きな施設を手がけた前例がなかった上、施設の形状は縦長で、温度管理の難易度が非常に高い。この難題をクリアし、みごとに形にして見せたメンバーの苦悩と活躍ぶりをご紹介する。
<営業担当> N.N(1999年入社 工学部 機械工学科)
空調ソリューション事業部 空調サービスシステムエンジニアリング本部
東日本システムソリューションセンタ 営業グループ<設計担当> M.K(1997年入社 工学部 機械工学科)
C.M(2017年入社 理学研究科 化学専攻)
空調ソリューション事業部 空調サービスシステムエンジニアリング本部
東日本システムソリューションセンタ 設計グループ<施工管理担当> T.N(1999年入社 設備工学科)
空調ソリューション事業部 空調サービスシステムエンジニアリング本部
東日本システムソリューションセンタ 工事1グループ -
設備の仕様詳細を詰める
施主である受託臨床検査事業会社様は、施設新設にあたり、もともと日立製作所のヘルスケアビジネスユニットへ相談していた。協議を重ねるなかでシビアな温度管理が必須となったため、日立製作所は冷蔵・冷凍設備のオーソリティである日立グローバルライフソリューションズに協力を要請。これを受け、設計担当として関わったのがM.Kだ。
「施設内で保管する検体には、直接温度計を挿して確認することができませんから、空間全体の温度ムラを徹底的に排除し、均一化する必要がありました」(M.K)
空気には、冷やせば下降し、温めれば上昇するという特性がある。このため、空間の温度を均一にするには、できるだけ建物の高さを抑えるのが理想だ。ところが、用地の広さが限られていたため、施設の形状は縦長だ。
「施設の規模自体が大きく社内に前例がなかった上に、温度管理が困難な縦長形状という条件も加わったため、設計や仕様はまさに手探りで進めることになりました」(M.K)
難易度の高い条件をクリアする上では、どうしてもコストに影響する。ここで調整役を務めたのが営業のN.Nだ。
「温度管理の部分では妥協が許されませんから、仕様を変えて金額を下げるという手段は使えません。建設会社や設備施工会社と交渉し、施工範囲の変更および縮小する方向で調整してきました」(N.N) -
度重なる仕様変更に苦心
M.Kのもとで、気流解析ソフトを駆使しながら施設内の温度シミュレーションを繰り返していたのがC.Mだ。
「倣うべき前例がないので、冷却装置の設置場所やダクトの通し方などを変えながら、ひと部屋につき約10パターンくらいシミュレーションし、最良の仕様を追及していきました」(C.M)
M.Kは、大変だったはずだと補足する。
「もとは、空気をかくはんするファンを随所に設置して、施設内の温度を均一化するという案がありました。しかし、完成後のメンテナンスの手間を考えると、設備の種類や数はできるだけ抑えるべきです。そこで、ファンを置かずに温度の均一化をめざすという、さらに難易度が高い方針に変更しました」
ただでさえ作業量が多かったなか、計画が進むなかではさまざまな変更が生じる。C.Mはその対応にも追われたという。例えば、柱などの位置やサイズが変更になった結果、冷却装置の設置スペースが当初想定より狭くなってしまったこともあった。
「慌てて冷却装置内の部品をオーダーしているメーカーに連絡し、部品の小型化を検討してもらう等の対応をしました」(C.M) -
いよいよ現場が動き始める
M.KやC.Mが苦心して仕様を固めると、いよいよ施工が始まる。施工管理の担当に指名されたT.Nは、当初、不安だらけだったという。
「このプロジェクトに関わるまでは、設備の入れ替えや補修など、小規模な現場の経験しかありませんでしたから。規模の大きさだけでなく、求められる水準が高度でシビアだった点でも、自分の知識や経験で対応し切れるのか半信半疑でした」(T.N)
さらに、施工途中ではコロナ禍で中断を余儀なくされるなど、想定外の事態にも直面した。
「施工を委託している社外パートナーには、見積もり段階で見込んでいた作業が不要になった部分と、追加の作業が発生した部分を相殺するなどで理解を得ていました。改めて、現場で顔を合わせている者同士の信頼関係構築の大切さを実感しましたね」(T.N)
営業担当のN.Nは、T.Nに大いに助けられたという。
「通常、プロジェクトの規模が大きいほど、施工がはじまってから想定外の事態が発生する場合があります。そんなとき我々営業は、その都度お客様や関係各所の調整に追われることもあります。ところが今回は、施工がはじまってから自分がどこかに出向くことはありませんでした。現場で想定外の事態が起こらなかったのではなく、T.Nがうまく収束させてくれていたおかげだと思っています。とても感謝しています」(N.N) -
ついに竣工の日を迎える
こうして、各メンバーの苦労や努力が結実し、検査施設が完成する。T.Nたちは、さっそく冷蔵・冷凍設備を稼働させ、テスト運転に臨んだ。
「1カ月ほどかけて、施設内の温度をマイナス25度にまで下げました。その間、設備は正常に稼働し続けましたし、施設内各所の温度分布にはバラつきがなく、想定通りに機能しました。これが確認できたときの達成感はひとしおでしたね」(T.N)
「細かなデータ解析はこれからになりますが、ひとまずは狙った温度帯を実現できたのでホッとしました。営業や施工管理はもちろんですが、資材部門の社員に調達資材のコストを抑えてもらったり、現場の職人さんからアドバイスしてもらったりと、本当に多くの人の協力のおかげで成立した案件だと思うので、感慨深いですね」(M.K) -
プロジェクトを通じて得たもの
このプロジェクトに関わったことが自身の成長につながったと話すのは、設計担当のC.Mだ。
「私がこのプロジェクトの担当になったのは、入社して間もないタイミングでした。正直に言うと、当初は、与えられた指示に従ってひたすら職務をこなしているだけでした。施設が完成したのを見て初めて“私は、こんなに大きくてスゴいものを対象にしていたんだ”と思ったくらいです(笑)。ただ、仕様の検討段階から竣工まで、一連の流れを経験できたことは大きな財産になりました。今後は、指示を受けるばかりでなく、自身の働きがどう影響するのかを踏まえた上で、自分から提案していきたいですね」(C.M)
ベテランながら、施工管理担当のT.Nも、このプロジェクトから得たものは大きかったと振り返る。
「このプロジェクトに関わるまでは、ほぼ単独でひとつの現場を担当していました。しかし今回は、要所要所で設計担当の知恵を借りながら対処しました。また、上司に施工内容をチェックしてもらい、改善すべき点のアドバイスを受けたりもしました。多くの人が高い専門性を持ち寄ることの大切さを実感できたのは貴重な経験でしたね」(T.N) -
プロジェクトの成功が将来の道を切り拓く
冒頭で触れたとおり、今回のプロジェクトは、社内に類似実績がない未経験領域だった。設計担当のM.Kは、この意義について次のように語った。
「都心部で高層ビルやタワーマンションが盛んに建てられていることからも分かるとおり、用地に限りがある日本では、建物を縦長にしてスペースを確保する手法が重要な意味を持ちます。縦長な施設でもシビアな温度管理を実現できたことは、日立グローバルライフソリューションのビジネスの可能性を広げたと思いますね。近年は、医薬品業界が活況ですから、受注機会の拡大につなげられるのではと期待しています」(M.K)
また、営業担当のN.Nは、このプロジェクトは竣工して終わりではないという。
「冷蔵・冷凍設備を擁する施設は、設備が故障してから対処するのでは手遅れになります。私たちは、設備の状態を遠隔監視して故障やトラブルの予兆を診断する『exiida遠隔監視・予兆診断』というシステムを商品化していますので、引き続きお客様に提案して、より信頼性を高めていきたいですね」(N.N)